合成宝石&キュービックジルコニア

 現在では、どんな宝石でも合成できます。自然物と人工物のモノとしての価値の差はありません。いえ、人工物の方が純粋で綺麗なので上でしょう。しかし、骨董的性質に価値を感じる人は、唯一性、希少性の故に、自然物の方が価値があると感じるのでしょう。身を飾る綺麗なアクセサリーという意味では人工物の方が綺麗です。

 ただ、ダイヤは炭、ルビーやサファイアはアルミにすぎないので、原料費が、すさまじく安いのが問題といえば問題かも知れません。人間は差別化に価値を感ずる動物だからです。全員が買えるようなアクセサリーには価値を感じないことはありますね。クレサンベールなどは、アクセサリーとしてのデザインなどに上手に付加価値を付けて売っているので、そこそこの値段が付いているようです。ちふれと資生堂の同じ機能の化粧品でも、高い価格設定の故に資生堂に価値を感ずるのが人間のサガなのでしょう。そういえば、昔、聞いた電器店での店員と客の会話:

 客:A社のカセットテープを下さい。

 店員:A社のは、今、切らしてます。B社のならありますが。

 客:B社のは音質が悪いので駄目だ。

 これを傍らで聞いていたDr.は思わず吹き出してしまいました。B社はカセットテープを作っておらず、A社から買って自社の名前で売っていたのです(OEM販売です)。この人は、音を音質で聴いているのではなく、企業名で聴いていたのです。

  ところで、人工のルビーは、合成ルビー、シンセティックルビー、再結晶ルビーなどの名で呼ばれています。検索する時は、これらをORで結合した方が確実です。

 ダイヤモンドはかつては合成の方が高かったのですが、今では大変安価に宝石品質の単結晶が合成可能になりました。しかし、デビアス社の統制が未だに効いているようで普及していません。そこで、ダイヤモンドに近い性質を持つ人工宝石としてキュービックジルコニアが使われています。キュービックジルコニアは「合成」宝石ではない。なぜなら、それには対応する自然物がないからである、などという言葉の遊びがなされていますが、「合成」が日常言語の意味ではなく、専門用語としてそのように定義されていれば、その通りでしょうが、宝石学でそのような定義がされているのかどうかDr.は浅学菲才にして知りません。

 キュービックジルコニアのアクセサリーが色々売られていて、そのネット上の評価に「ダイヤと違うので輝きはこんなものだ」、というような書き込みが時に見受けられます。恐らく、この人は、本当はダイヤを見た事がないのでしょう。あるいは超大金持ちで5カラット、Flawless、Dカラー、3Excellent H&C のダイアしか見たことがないのかも知れません。Dr.と同じように趣味でキュービックジルコニアを買っただけかもしれません。キュービックジルコニアを肉眼で見てダイヤと違うなどと言える人は、どのくらいいることか。プロでも器具を使わない限りほぼ分からないと言われています。百発百中で弁別できる人は居ないのではないでしょうか。息を吹きかけるなんてのはなしですよ。

 たとえば、デパートで数十万円~百万程度で売られている0.5カラットや1カラットのいい加減なダイヤモンドと比べたら、キュービックジルコニアは遥かに美しい光を発しています。だから、分かるんだというのはブラックユーモアですね。ダイヤはピンからキリまであるので、中にはブリリアンシー、ディスパーション、シンチレーションがまるで低レベルのダイヤもあるわけです。中庸なダイヤより、キュービックジルコニアは良く光り、紺、オレンジ、黄緑などを含んだ綺麗な虹を出します。人工物であることから、品質を制御できるのでピンキリの度合いが少ないからでしょう。それに、何と言っても硬度がダイヤより低いので、カットが簡単でExcellentで58面ブリリアントカットにする手間もダイヤほどではないからでしょう。

 Dr.の机の上にもいくつかのキュービックジルコニアのアクセサリーが趣味としての比較研究の為に転がっていますが、綺麗な虹を発していてくれて、癒してくれています。尤も、キュービックジルコニアでも、メーカによってカットがいい加減なものもあります。たとえば、真上からみると、◇にカットされているのが分かると思いますが、この各辺が内側に反っていなければいけません。直線だったり、外側に樽にように膨れているのは悪いカットで、輝きません。また、頂上は台地になっています。テーブルと呼びますが、この直径は全体の直径のダイヤの場合で、53%から59%程度になっている必要があります。ジルコニアも似たようなものでしょうが、Dr.の手持ちにはむやみに広いテーブルのものがあり、輝きが悪くなっています。

  そうそう、業界関係者の言い分を聞いてみましょう。嘘は、99%の真実に1%だけ混ぜれば、ばれない、という箴言を地で行く良い文章です。99%は正しく、客観的、論理的ですが、そこに少しの嘘を混ぜて100%真実のように見せている中々の名文ですよ。苦しげではありますが。

 全文のURL: http://www.gem.or.jp/ngl/mame/qa/q9.html

  「自然の成長過程でつくられる(気の遠くなるような膨大な時問をかけてつくられる)天然石は、美しさのひとつひとつが、ちがっています。」

 は、なかなか笑える論理ではないですか。この内容から 自然石の美しさ>合成石の美しさ を言いたいのは明らかですが、それは帰結しません。論理を分かっている人には自明ですね。この人の主観、意見に過ぎません。そもそも「気の遠くなるような膨大な時問をかけてつくられる」は事実ではありません。講釈師、見てきたような嘘をつき、です。ダイヤモンドは実験的に短時間でできることが証明されています。グラファイトからダイヤモンドに高温・高圧下で相転移させるだけのことなのですから。自然にできたダイヤモンドを、その後、発生した人類が有史時代に入って発見の記録を残すまでの時間は膨大であったかもしれませんけど。

「CVD法によって0.1μm - 10μm/hourという低速度での人工ダイヤモンド合成が1990年代に行なわれていたが、1999年頃に米カーネギー研究所が開発した、窒素を加える方法で150μm/hourの速度になってからは、ボストンのアポロ社で宝飾用のダイヤモンドを製造して販売している。

・・・

しかし、宝飾品レベルのダイヤモンドは人工的に作成可能だが、これが普及していないのは、デビアス社等供給サイドの圧力があるからだと言われている[要出典]。」

  -- http://ja.wikipedia.org/wiki/ダイヤモンド

 「繰り返しますが、天然石は、この地球の奥底で、膨大な時間をかけて、生成された天然の産物です。 ロマンチックな云いかたをすれば、この地球という名の、ちいさな惑星からの、これは贈りものなのです。 古来から、ひとはそこにさまざまなメッセージを読み取り、それをつぎの世代へと引き継ぎました。 宝石とはそういうものです。」

  「膨大な時間」以外は、別に嘘を言っているわけではありません。しかし、「宝石とはそういうものです」と言われても「どういうもの?」と問い返したくなります。自然石の方が合成石より優れていて、高いのは当たり前でしょ。自然石を買ってくださいね・・・という行間の声が聞こえてきます。