トヨタ自動車が燃料電池車の特許を公開

トヨタ燃料電池車の特許5680件を期限付きながら無償公開すると発表しました。それ自体は物凄い、信じがたい英断です。燃料電池車の開発には恐らく数百億円の研究開発費がかかっているはずで、その成果である特許を無償で提供してしまうということですから。
 ここで、2つの疑問が湧きます。
・なぜ、電池と電気自動車というどちらも難しいとは思えない技術(燃料電池は難しいのですが)に5680件もの特許があるのか。
・なぜ、研究開発に数百億円などという費用がかかるのか。

後者から答えましょう。この研究開発に何人の技術者が関わっているかですね。本当は電気自動車としての駆動系は既にハイブリッドで実用化していますので燃料電池車としての開発費用はほとんど0でしょうが、敢えてそこまで含めるとしましょう。高性能モータ、トランスミッション、回生制動、ハイブリッド駆動系、燃料電池、水素の燃料タンク、燃料注入法、水素ステーション・・・考えれば幾らでも研究開発項目は浮かびます。

研究開発に100人で10年掛かったとすると1000人年です。技術者の平均年収が800万円とすれば、会社としては1500万円くらいの人件費負担になるのではないでしょうか。1500万円x1000人年=150億円:なんだか思ったより安いのはどこかの基礎データに誤りがあるのかな(例えば、試作は別働隊の仕事です)?これに加えて研究設備、試作費を200億円と適当な山勘で出せば、合計350億円。もっとしたのではないでしょうか。ヤマ勘で2倍して700億円とか。


企業は絶対にこういうデータは出さないのでこれがどの程度の誤差で合っているかは分かりませんが、まあ、桁程度はあっているでしょう。

さて、特許の数です。実は企業の出す特許には言ってみれば「禁止的特許」(Dr.の造語です)と「防衛特許」があります。普通に人々が考えている特許は「禁止的特許」です。その特許なくしては製品を作ることが禁止されているのと同等の状況になる特許。つまり、本物の特許です。

例えば、1800年代に「音声を電気信号に変換して伝送することを特徴とする電話装置」が特許になれば、これは「禁止的特許」と言っていいでしょう。音声を電気信号以外の形で何十Km~何千Kmもどのように伝送することができるでしょうか。狼煙というわけにはいきません。

「歯が2つ以上並行して付けられていることを特徴とする下駄」を図解入りで特許にしておけば、これも「禁止的特許」になるでしょう。これを避けるには1本歯の下駄とか、円形の歯とかしか作れないので、作っても売れないでしょうから。

 

「防衛特許」とは、その特許を回避して別の方法で製造可能であるが、「マルマルマネされたくない」から特許にしておくという特許です。ですから、企業の技術者は部品全部に関して一つ一つ特許を取っておくなどということをするのです。これが5680件という膨大な特許になっているのでしょう。

かつて、日本は米国での特許申請数世界一となった事があります。米国から「くだらない特許は出すな。無駄な審査に金がかかる」とクレームをつけられたほどです。それ以来、米国への申請は控えるようになりましたが、それでもお隣の図体が大きいばかりの国で「まるまるコピー」されるのはかなわないのでこういう防衛特許は必要なのです。とはいえ、あの国に国際的な知財権概念などあったかな??

5680件の中にはいくつか「禁止的特許」があると思います。それは企業競争力の源泉なのです。それも含めて開放するなどということは本当に凄いことだと思います。