翠光トップラインの「断熱フィルム」には根拠なしと消費者庁

 以前、無能なお役所の大きなお世話について書きました:

無能なお役所の介入の迷惑 - dr-yokohamanerのブログ

 今回はましな事をしたようです。

 


消費者庁は、翠光トップライン(東京都文京区)製造の窓ガラスに張るフィルムの断熱効果には根拠がなく、景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして、同社に再発防止などを求める措置命令を出す方針を固めた。13日、関係者への取材で分かった。

 同社は、窓ガラスに張って使う「シーグフィルム」を製造。フィルムには断熱効果があり、冷暖房効率が最大40%上がるとして「夏涼しく、冬暖かい」と宣伝していた。

翠光トップラインの「断熱フィルム」には根拠なし 再発防止命令へ 消費者庁 - 産経ニュース

 薄いフィルムには断熱効果はないでしょう。そもそも断熱を行うことは難しいことなのです。東大まで採用していたとはなかなか嗤うべきことですが、大学と言うところは事務と教員の間に何の協力関係もないのでしかたありません。似たような関係に、医師と事務、裁判官と事務・・・一般企業はトップが事務系からも技術系からも出ますから技術と事務の間の関係は希薄とはいえ、これほど薄くはありません。話が逸れました。

 熱の実態は意外に知られていません。高校までの教育では教えられていないと思いますし、大学でも文系は教えられないでしょうから。

 熱の実態は原子の振動なのです。その振動が激しければその物体は高い熱エネルギーを持っていることになります。それに人間が触れると、人間の肌にあるセンサーから入った信号に対して脳は「熱い」とか「冷たい」と感じます。人肌という表現がありますが、自分の体温より高い熱には熱い、低い熱には冷たいと感じるのでしょう。人間は、原子という物の運動を温度の熱い、冷たいと感じるのです。

 となると、熱には最低限度があります。熱を測る単位で言えば、マイナス1000°Cなどは無いのです。-273°C=0°K が最低温度ですね。そこは原子の振動が止まってしまった状態なのです。量子力学と言う厄介な理論によるとハイゼンベルグの不確定性原理があるので、完全な停止はありえず、従って完全な0°Kもないことになりますが、普通の理解では0°Kが最低で熱はそこでは存在しないと覚えておけばよいでしょう。

 さて、熱の正体がわかれば、それが伝わるメカニズムを遮断することが断熱という、同語反復になってしまいましたが、ことなのです。

 熱が他のものに移るメカニズムは3つあると、中学かどこかで習ったことと思います。伝導、対流、輻射(放射)です。物と物を接しておけば運動は伝わります。これを防ぐのはなかなか困難です。窓ガラスの外側の空気がガラスに衝突して伝わるガラス原子の振動を止めるのは厄介なので、ガラスを2重にして間の空気を抜いて真空にすることが行われます。そうすれば、ガラスに伝わった振動は真空には伝えるものがない(物理学は真空にもなにものかがあるという面倒な事を言いますが、ここでは忘れます)ので伝わりません。実際には完全な真空など無理ですし、真空にしなくてもガラスという原子の稠密な固体よりは遥かにガラガラに隙間があいている空気なら振動は伝わりにくくなります。断熱の二重窓はこの原理で熱伝導を低くしています。間に空気を入れよ、ですね。

 魔法ビンも同じ原理ですし、断熱壁にグラスウールを入れるのも、冬に薄目の衣服を何枚も着込むのも、フワフワの羽毛を布団に使うのも、すべて固体より原子密度の低い、従って振動が伝わりにくい気体を間に挟もうという発想です。

 さて、こう考えると、「シーグフィルム」に果たして断熱効果があるのでしょうか。このフィルムに外気が衝突しても、振動は「シーグフィルム」原子に伝わらない特殊な材料を使っているのでしょうか??そんなものは多分ないと思います。スペースシャトルは特殊なセラミックタイルを使って断熱して機体が燃え尽きることを防いでいますが、なにしろセラミックです。

 対流は、流体は一般に温度が高いと軽くなることにより起きる現象です。これにより流体の流れが生じ熱が移動します。なお、水は4°Cで最も重くなるので、水面が0°C以下で氷結しても池の底は4°Cだったりします。魚が生きていられるのはこの為です。

 対流は、二重窓の間にある空気が動くので、熱を伝えてしまう効果があり断熱の敵ですが、「シーグフィルム」には防ぐ対象がありません。

 最後にかつて輻射と呼ばれた放射現象です。

高原暮らし 睡眠編 - dr-yokohamanerのブログ

 原子が振動すると電磁波が生まれて放射されます。これもエネルギー移動で熱と感じられるということです。窓を閉めていても、太陽の光=電磁波=電波が熱を室内に運んでくれるのはこの作用です。「シーグフィルム」は透明度が高い、つまり、可視光線をほとんど遮断しないということですので、紫外線カットしか期待できませんが、はてさて・・・多分に詐欺の臭いがします。