ギリシャ問題の本質

 ギリシャとEUがギリシャに金を貸す貸さないで争っています。EUはギリシャが借金で贅沢三昧をするのであればもう支援しないと言っているのに対し、ギリシャはそんな貧乏生活は真っ平だと言っているわけです。投資をしている人ならこの状況には目を凝らしている必要があります。

 問題は以下の点でしょう。週刊誌風に戯曲化してありますのでそのまま信じないように。

ギリシャがEUに参加した時、経済・金融上の状態を偽った

 個人に譬えると、借金1億円、無職で収入0、毎月の生活はサラ金からの借金でまかなっているのに、貯金2000万円、月給60万円と偽ってEUに加入したみたいなもの。その後、政権が変わって、この事実が明るみに出た。

・膨大な借金をもつ

 借金で国の財政を賄っていた。

・労働者の4人に1人が公務員

 政権が票欲しさに、選挙事務所に来た無職人をどんどん役所に入れたため。日本でも、どこにも雇ってもらえないノースキルな人は田舎では市長や町長の所に頼みに行けば市役所、町役場に高給で入れてくれます(した?)

・年金が、生涯最高給で支給される。しかも50歳(代?)で支給

 かつてのJALみたいなものですね。ちなみにJALは年金削減に反対して倒産しました。年俸2000万円の人は、うっかり定年や、役職定年になるまで働くと年俸が減るので、ギリシャでは年金が減ります。まだ50歳代の絶頂の時に退職するのです。そこから年金支給が始まります。勿論、ギリシャ政府のお金=ギリシャ人の税金ではなく、EU=ドイツ・フランス人の血税からの借金を大盤振る舞いです。

・脱税王国

 収入を管理する法制度がないので、商売はやりたい放題の脱税王国。法を作ろうとする政権は国民の支持を失い、前政権のように倒れ、現政権のようなばらまき無責任体制になります。

 

 面白いノンフィクション風小説をご紹介しましょう。事実を題材とした小説です。

 歴史は繰り返すと言いますが、ギリシャ問題の本質が著者アードマンの諧謔と訳者池の名訳によって活写されています。

 大きな本屋かBookoffの100円コーナに行けばまだ見つかります。

 

「イタリア」を「ギリシャ」に、「サウジアラビア」を「ドイツ」に、「(イラン・イラク)戦争」は「イスラム国戦争」に一括置換して読んでください

 

 「オイルクラッシュ ポール・アードマン著 池央耿訳 新潮文庫 pp.36-47

 おめでたい話だが、その時私の関心はもっぱら戦争ではなく、金に注がれていた。サウジアラビアの金だ。そしてその1978年11月、どうやら莫大な金がどぶに流れているように見受けられたイタリアのどぶだ

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話は簡単だった。イタリアはそれまでに次々に背負い込んだ外債を踏み倒そうとしている。誰かがさらに何十億(ドル)かを注ぎ込んでまたイタリアを救ってやらなくてはならない。ドイツ、つまり政府を後ろ盾とするドイツの銀行は共同市場(EUの前身)のパートナーのよしみで、すでに三度イタリアの窮状を救った。しかし、これ以上はもうできないとライヒェンバーガーは言った。イタリアはすでに破産した国だった不良債権で苦い思いをした上に、みすみす確かな金をどぶに捨てるのは愚の骨頂だ。その朝西ドイツ政府は閣僚会議を開き、その結果ライヒェンバーガーに政府としては、今後新たな信用を供与しない旨を伝えてきた。

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債務者はイタリア財務省以下ローマ、ミラノ、テューリン(トリノ)、フィレンツェ各市・・・などであった。

 いずれの借款も、ある一つの点で共通していた。すなわちそれは、イタリアが国家としての道義的責任において還付するであろうという認識のもとにそれらが供与されたことであった。

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(ヨーロッパの大国であるイタリアに金を貸すことは)絶対確実な、うまい商売だった。1970年代の半ばまではそうだったのだ。ところが、機を見るに敏なヨーロッパの銀行家たちが一人また一人と、同じ単純な疑問を胸に抱きはじめたのである。「イタリアはどうやってこれだけのローンを返済するつもりだろう?

 誰も答えを知らなかった。樽の栓は閉じられた。・・・「しばらくは共同市場にイタリアの面倒をみてもらおう」というのが彼ら(商業銀行)の態度だった。彼らは商業銀行の融資の返済期限が迫る1979年ごろには共同市場がイタリアにドルを供給し、イタリアが返済に困らないようにしてくれることを祈った。・・・共同市場といっても、実際には西ドイツ政府そのものであった。ドイツはイタリアが必要とする数十億ドルを何年か用立てた。無条件で貸したわけではない。ドイツ人は世界一慎重なしまり屋である。ドイツは確実な担保を要求した。はじめは、イタリアの金準備の一部を、そしてのちにはその全部を要求したのである。イタリアはそれでもなお生き延びるためには現金を必要としていた。石油を買い、小麦を買い、ウィスキーを買わなくてはならなかったのだ。

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かくして、世界じゅうの金(かね)を支配する十一カ国が一堂に会したのである。

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イタリア代表が口を開いた。イタリアにとって必要なのは、ただ二十億ドルばかりの金である。それがなければイタリアは1979年に必要とする食料をアメリカやヨーロッパから、それに石油をアラブ諸国から買うことができないし、もうこれ以上、現在継続中のユーロダラー・ローンの金利を払うわけにはいかない。払いたくとも払えない。ローン総計は160億ドルである。そして、彼は最後に言った。イタリアは1960年代に導入し、不幸にして1979年に返済期限を迎えようとしているコマーシャル・ローン、約二十六億ドルの返済などは思いも寄らない

 「しかし」ベルンの財務省代表が口を挟んだ。「今あなたはいとも気楽に二十億ドルばかりと言われましたが、それではすまないのではありませんんか。それでは焼石に水ではありませんか」

 スイス人は頭の回転が速い。自分の金が危ないとなるとすかさず算盤を弾くのだ

 さよう、とイタリア人は答えて言った。スイス代表が正確な数字を旨とされるならば、正直なところ我々には四十億ドルが必要であろう。

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「四十億ドル!」ドクター・ライヒェンバーガーは中立な議長の立場を忘れて自国語で叫んだ「とんでもない!(ウンメークリッヒ!:不可能だ)」

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 今やうろたえているのは一生生活を保証されている役人たちではなく、銀行家たちだった。銀行の金を貸しているのか、くれてやっているのか深刻に考えることもせず、女房ともどもローマやミラノやフィレンツェで盛大にもてなしてもらうことばかりを期待して、長年の間、疑うことを知らない預金者たちの金を飴玉のようにばらまいてきた灰色のスーツを着た名士たち。

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誰かがイタリアに新たに大口の融資をしなければ、イタリアは期日の迫ったローンを返済できない。そうなれば二十六億ドルがタナ上げだ。・・・もしイタリアが残るローン、百四十億ドル余の金利をいっさい払わないとなると、ローンは監査役たちの手で、再整理されなくてはなるまい。・・・やんぬるかな”不良債権”の烙印を押され、即刻全額帳消しということになるのである。銀行の準備金、資本、・・・が露と消えてしまうのだ。チェースとナショナル・シティはたぶん生き残るだろう。しかし傷は深い。ロンドンは大混乱に陥るだろう。破産が相つぎ、訴訟沙汰が持ち上がる。階級争議が起り、銀行家は杜撰な経営を指弾され、詐欺師と呼ばれるだろう(リーマンショックを思い出してください)。なんということだ!どじなイタリア人どものおかげで永遠の破滅においやられてしまうとは

 カナダ人の一人がふいに室内を襲った沈黙を破った。「しかし」イタリア蔵相に向かって彼は言った。「あなたの国の政府は、ローンを返済する道義的責任があります

 このナイーブな発言に一瞬きょとんとしてからイタリア政府のスポークスマンは言った。「どうやってですか?

 まったく、どうやって返済することができたろう。イタリアにはドルも金(きん)もない。ドイツがヴェニスを取り、スイスがフィレンツェを、そしてアメリカがシチリアを取ってもいいかもしれない。しかし、誰が(貧乏で抵当価値のない)ナポリを欲しがるだろう。

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 ライヒェンバーガーはひとまず休会を宣した。

pp.100-110

アメリカ・ファースト・インターナショナル銀行の会長兼頭取ランドルフ・オルドリッチだった。銀行業界の大御所である。世界じゅうの銀行のだ。
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『・・・ヨーロッパは今や崩壊しつつある。ポルトガルはとっくの昔に崩壊した。ギリシャはもはや立ち直れない。イタリアも同じ。イギリスについては、今さら言うこともない。』

 これはアメリカの銀行家の1978年の会話として設定されています。ギリシャ問題は既に40年来の問題なのです。

()内はDr.の注です。