民事訴訟の起こし方

 先のテーマがデザイン盗用に対する訴訟でしたので、提訴の方法のさわりを書いてみます。

 まずは弁護士の選定ですが、医師に名医とヤブがいるように、当然、両方がいます。引っ越した先でどこの医院、病院に行ったら良いか分からないようなもので、こればかりは簡単には分かりません。離婚訴訟が得意、相続訴訟が得意、知財権訴訟が得意など。知財権問題なのに刑事専門の弁護士の所に行っては、心臓が悪いのに皮膚科に行くようなものでしょう。とにかく、つてを頼って何とか選んだとします。

 弁護士費用は一応相場はあるとはいえ、相対取引ですから相談ですね。今、テレビで盛んにコマーシャルが打たれているものに、ノンバンクなどへの過払い金を取り返すものがあります。コマーシャルを見ていると、これは成功報酬だけのようです。着手は無料。成功して相手から得た償金の25%とかが報酬になるわけです。このパーセンテージは最初に弁護士から提示されるでしょう。普通は、着手金があり、行動ごとに相場費用があり、成功報酬がありなどとなると思います。

 さて、いよいよ提訴となりますが、相手に内容証明郵便で訴因を解決するように要求しておきます。いきなり、裁判所に提訴はしない方がよいでしょう。弁護士がそのように勧めると思います。裁判所に、自分はこんなに解決のための努力をしたのだが相手が拒否したので致し方なく提訴したという事を示す為です。民事などは民間同士の喧嘩なので、ただでさえ忙しい裁判官に余計な面倒をおかけしない努力はしたのです、ということです。

 そんなことで済む相手ではないから提訴に至ったわけなので、当然、相手は拒絶するでしょう。ということで、いよいよ提訴です。弁護士がやってくれます。いろいろ訴訟書類を弁護士を通して裁判所に提出するわけですが、これが済んでしばらくすると、弁護士を通じて裁判所から呼び出しが来ます。

 テレビを見ていますと、法廷闘争が面白いのですが、あんなことは民事では滅多にありません。法廷はほとんど開かれません。場合によっては最初だけです。しかも5分で終わりです。審理を開始する宣言です。しかし、解決までの間は何度も裁判官と原告、被告の三者の交渉が持たれます。これを期日とよびます。原告が訴状を出します。これへの反論が被告から届きます。それに関する打ち合わせです。これは裁判所の狭い会議室で開かれます。裁判官は、裁判長、右陪席、左陪席の3人(全員出るとは限りません)。原告と弁護士団(たとえば3人)、被告と弁護士団(たとえば4人)。これがメンバーです。ここでも議論はほぼありません。主張は紙面で行われるのです。従って、裁判官は、両方に対して、相手の主張を読んだ事を確認し、それへの反論があれば、何時までに裁判所へ提出するかを確認し、次の期日の開催日を確認して終わります。10分か15分で終わります。

 こうして会議室での期日を繰り返します。相手への反論をそれぞれに作成し、それに対する次の期日を迎えるまでには普通、2,3か月かかります。裁判が年単位でかかるのは、このペースで行われるからです。
 その間に、裁判所は両者に和解を勧告します。和解がうまく行かなければ、最後は開廷して判決となります。

 こんな具合ですが、期日と期日の間の数か月は原告も被告も暇ではありません。相手に反論するための証拠集めとその評価、戦略などを弁護士と練ることになります。ここが弁護士の腕の見せ所でもあるのです。民事で証拠集めとか戦略とかが要るのかと思われるかもしれませんが、民事では偽証罪という追加の罪状のリスクなしに嘘のつき放題ができるからです。嘘がばれたら、「思い違いでした」で済んでしまうので、裁判官は事実上、偽証罪をとりませんからね。「展覧会には行ったが、その絵は見ていない」といいながらその絵に似たものをかけると言う矛盾から、嘘を暴く方法を考え出す必要があります。これは直接証拠で暴く事もあれば、間接証拠から暴く事もあり得ます。弁護士の腕の見せ所なのです。

 アリバイ崩しの推理物があります。アリバイとは日本語では現場不在証明です。現場に監視カメラがあればそんな証明は簡単にできます。問題はカメラもない、誰も見ていない所に犯人がいなかったという証明がどうやってできるのか、です。犯人は当然、私はそんなところに居なかったという嘘をつきます。これは直接証明ができません。人間は一つの時点には一つの場所にしか居られないという事実を前提にするわけです。分身の術を使える人は困りますが。そこで、犯行が行われたその時点には、自分は別の場所に居たということが現場不在証明になるのです。死亡推定時刻は残念ながら時点では示せず、幅がありますので、その幅の時間内に往復できない別の場所に居たということで、現場不在証明ができるわけです。この証明方法は直接証明ではないので、それを崩す捜査が物語になるのです。被告・犯人しか知らないはずの事、主観である「知らない」「記憶にない」を崩すのはアリバイ崩しと同じなのです。直接証明でなくても、合理的に推定できれば裁判官はその証拠を採用してくれるでしょう。

  BSのDlifeチャンネルの「スーツ:suits:訴訟(複数)」(スーツは訴訟です。洋服のスーツと同じスペリングです)に出てくる敏腕弁護士ハーヴィーの仕事は素晴らしいですね。もうだめかというところから逆転です。弁護士は単に法廷への手続きの「代理人」でもあるのですが、難しい訴訟では、その腕次第の所もあります。ヤブに会うと、勝てる訴訟も負けとなる可能性もあります。

ハーバード大学ロースクール出身しか雇わないマンハッタンの大手弁護士事務所に勤める若き敏腕弁護士ハーヴィーは、自身の部下となるアソシエイトを選ぶ面接会場で、天才的な記憶力を持つフリーターの青年マイクの才能を見抜き、雇うことにした。2人はぶつかることも多いが、様々な訴訟に挑みながら信頼関係を築いていく。同シリーズは、リーガルドラマでありながら、法廷シーンはほとんど登場せず、キャラクターを重視した作風が特徴のひとつ。」

www.dlife.jp より引用

 こんな話を聞けば、どんどん弁護士費用が嵩んでいくのは分かると思います。余程の財力があるか、成功報酬だけの契約をしているかでなければ、そのうち、和解へ進むことになるでしょう。