冷やすことの難しさ

人類がこの世に生まれて、火を使うようになって以来、何万年か暖房はできています。しかし、冷房という物はなかなかできませんでした。ほんの30年位前でしょうか、一般家庭に普及しはじめたのは。北海道に行くと今でもない家庭もそこそこあるとか。一つには、冷やすという事はエントロピーを下げるという自然界の物理法則に逆らう無理をしなければならないからでしょう。

 

Dr.Yの記憶では、家庭用のクーラ(まだエアコンという呼び名はない)は、昭和50年代になってやっと6畳用が30万円で出てきました。大卒の初任給が8万円かそこらの時代です。つまり、手取りで数えれば、給料の半年分です。やっと買ってもリビングに一台入れるのがやっとの時代です。各室に入れるなんて普通の家庭では夢でした。北海道や東北北部ではデパートにさえ入っていませんでした。

 

冷やすという事はそれほどに難しいことでした。それを考えれば、数千円で売っている、パーソナルクーラというものが如何に詐欺的製品であるか分かると思います。セレブな白人男女が寝室で使っているイメージ動画がコマーシャルで流れていますが、そんなわけないでしょう。完璧なPoor person's toolです。

昭和の30,40年代の冷蔵庫は、氷で冷やしていました。木製の枠組みの中にトタン板をはり、上部に20cm角位の氷の塊を2個入れます。氷は毎日氷屋さんが出前で持ってきてくれました。そんなものでも、そこそこ裕福な家庭にしかありませんでした。

 

シャルルの法則というものがあります。気体は熱すれば膨張し、冷やせば収縮するという法則です。中学校でならったはずですが、愚かなユトリ教育で消えたかもしれません。

 

熱すれば膨張するのですが、気体を入れ物にいれて圧縮しておいて周囲と同じ温度になるまで冷やしておきます。ヘヤースプレーや殺虫剤の缶がその状態です。で、入れ物の蓋を緩めれば、圧縮されていた気体は周囲の気体の圧力に戻ります。つまり、膨張し、噴射されます。熱を入れずに膨張するのですよ! 本来、熱を入れないと膨張しませんが、圧縮してあるので、とにかく膨張します。だから、膨張に必要な熱の分だけ温度がさがるのです!熱を入れずに膨張させるので、断熱膨張と言います。これしか工業的に冷やす方法はありません。このプロセスを連続して行っているのがエアコンです。簡単に体験できます。ヘヤースプレーを20秒噴射すれば、缶が冷えます。

 

断熱膨張させるには、圧縮しないといけません。冷やせば収縮するのですが、そもそも冷やすことが難しいので冷やして収縮はできません。圧力を掛けて収縮させます。圧縮ですね。冷やしてないのに収縮するので、冷やしたと仮定した分の熱が気体から出てきます。熱くなります。自転車の空気を入れると熱くなるでしょ。断熱圧縮です。

 

断熱圧縮と断熱膨張を連続して行っているのがエアコンです。気体を、室外機で圧縮します。熱が出るので大きなファンで風を送り熱を発散させます。夏、室外機に燦々と太陽が射しているとファンくらいでは十分冷えないので困りますね。所謂、クーラーの効きが悪い状態です。

 

とにかく、圧縮して出た熱をファンで散らし、圧縮された気体を常温に戻します。その高圧の気体を室内機に運び、フィンの中で噴射させて元の気圧に戻せば、断熱膨張でフィンが冷えます。で、そのフィンにファンの風を当てれば冷えた空気が室内に出てきます。元の気圧に戻った気体は再度、室外機に送られ、断熱圧縮させます。これで、一回転しましたね。

 

この断熱圧縮と膨張を室内と室外で逆にすれば暖房になります。つまり、室外機で断熱膨張させているので室外機が冷えます。冬の寒い時に冷やしてしまい、その気体と室外機を元の温度に戻そうとファンで外気を吹き付けても、外気が0℃近い場合、全然、温まらないので、逆に霜がつき、ツララに育ってしまいます。エアコン暖房が、寒い時期には無力になるのは、このためです。

 

暖房の時には、太陽の光が燦々と射した方がよいのですが、なかなかそう調子良く太陽は出てくれず、雪が深々と降っていたりします。電熱器で温めて霜やツララを融かすより仕方ないのです。つまり、エアコンという物は、冷房も暖房もかなり無理をしている機械なのです。室外機は大切にしてやる必要があります。夏、陽が当たる場合、ヨシズで陽を遮り、風通しを良くしておきます。冬は、陽が当たるようにして、雨、雪を避けます。暖かい風が吹き抜けて霜を融かすようにしてやります。それほど矛盾に満ちた機械なのです。

 

圧縮って、自転車の空気を入れたことがある人なら分かるでしょうが、もの凄い力が要ります。つまり、強力なモータが入っていてジャンジャン電気を喰うのがエアコンなのです。モータは鉄の塊なので重いですね。

 

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