裁判員に指名されたら

 裁判員を経験し、急性ストレス障害になったとして国を訴えている裁判があります。そこで、裁判員になってしまう場合について経験をお話ししましょう。

 詳細は忘れてしまいましたが、半年くらい前に、あなたは来年裁判員になりますというようなお知らせが多分、最高裁判所から来ます。そして、年が明けると住居近くの地方裁判所からx月x日に、x地方裁判所に来ることという、ちょっと最高裁よりは高飛車な通達が来ます。裁判員制度では、極めて特別の事情がない限り、職場にその話を上げて許可をもらい、地裁に出向かなければなりません。そこへいくと30名くらいでしたか同じ通達をもらった人たちが小学校の教室くらいの会議室に集まっています。

 しばらくすると、その裁判の裁判長と事務員が来て、これからこの中から裁判員候補をパソコンのサイコロソフト?によって無作為に抽出しますと言って、机の上のパソコンでなにか操作をします。その前に、何かの事情で裁判員を務められない人は申し出てくださいということで、一人申し出て認められていました。精神的な問題があったようです。その場で即決したのではなく、既に話は済んでいて公開の場で認めたという感じでした。

 この手続きを確か2回繰り返したと思います。籤運の悪いDr.が2回も当たる訳はないと高を括っていたのに当たってしまったので覚えているのです。最後に選ばれた人の名前が読み上げられます。無作為抽出されたということですが、私たちはパソコンの背しか見ていませんし、プロジェクターに選定経過が映されているわけでもないので、本当に無作為かどうかの証明はありません。裁判所を信じるだけです。確か、最終的に6名の裁判員がこれで選ばれました。

 ところで、裁判所は裁判員を無作為以外の方法では選ばないことになっています。山口組の組員とか、ピアスに茶髪・刺青もちも善良な市民と同等に扱って選ぶのでしょうか?大抵の犯罪者は、そんな者たちに裁かれるのは真っ平だと思うのではないでしょうか。ここが実に不思議でした。さて、この後、その疑問が氷解しました。裁判所は選びませんが、検事と被告の弁護士が裁判員を忌避できるのです。ということで、次は、裁判官(裁判長と、右陪席、左陪席の3人。この順に偉い)、検事団、弁護団と裁判員候補全員との集団面接となります。面接と言っても、氏名を述べるだけで一瞬で終わります。ここで、ピアス茶髪は忌避されるのでしょう。

 めでたく、面接をパスすればこれで裁判員が決定です。Dr.は殺人事件の裁判員でした。男性4名、女性2名ではなかったかと記憶していますが、自信はありません。男性は全員イメージに残っていてどんな人であった(年齢、風采、服装、職業(裁判所からの紹介は無論ありませんが、会議室の自由時間に勝手に話しています)、どんな意見だった)かを今でも言えますが、女性は最初から最後まで無言のままでうつむき加減でしたから何の印象もありません。2名ではなく3名だったかもしれません。40代か50代の中年だったということだけ覚えています。普通の主婦ではなかったかと思います。この選定の日は、その後、ちょっとだけ裁判官から事件のブリーフィングがあり、日程を伝えられて帰宅しました。

 日程というのは、翌日から連続終日3日間だったと思います。犯人は明確で罪も認めているので量刑を決めるだけの手続きでした。法廷で写真や証拠、証言をもとに事実確認を2時間ほど行うと、裁判官と裁判員は会議室に戻り、話し合うことになります。裁判長と右陪席が、このような犯罪だと、これまでのデータベースでは、おおむね懲役5年ほどですのようなアドバイスをしてくれます。裁判員は色々と質問をしたりもします。それが1時間程度で済めば、法廷を再開です。一日にこれを2回か3回行います。そんなこんなで結構タイトな日程で裁判が進んでいきます。

 最後の日に量刑を話し合うのですが、ここが、本来の裁判員裁判の本領なのです。職業裁判官は淡々と、データベースから懲役x年と判断しますが、裁判員は無辜の人を自分の勝手な都合で殺したとあって憤る人もいて死刑を主張したりします。Dr.も、日本の刑法は、宗教戦争、宗教裁判などで何百万人も無辜の人々を殺してきた欧米の、今さらの偽善的刑法をコピペしたもので日本人の良き文化を反映していないと思っている一人です。裁判官と裁判員が記名なり、無記名なり(どちらにするかはその場で話し合ったと思います)で投票したり、意見を言ったりします。

 確か、裁判員の主張する量刑の中に一人は裁判官が入っていないといけない、のようなルールがあり、例えば、40歳の男が41歳の男を駅で喧嘩して殴り殺した。初犯の殺人であったという場合、裁判員全員が死刑を投票しても、間違いなく裁判官3人は5年か10年くらいにしますので、上のルールにより死刑は採用されません。一応、これが過剰な量刑になる歯止めにはなっているのです。とはいえ、これでは裁判官の中の最も厳しい人の量刑でしかなく、裁判員の意味があるのか疑問です。そのために、何度も会議をして話し合うのでしょう。裁判官の中には、裁判員の意図を汲む人も現れるかもしれません。

 Dr.の場合、最初の選定日を入れて都合4日ほどで裁判は終わりました。これで、5年だか、10年だかは二度目の裁判員の役は免除です。

 しかし、裁判の中では被害者の殺されたままの乱れた下着姿などを見なければなりません。浅見光彦シリーズの「xx殺人事件」、「科捜研の女」や、極めつけはDlifeの「CSI(現場検証)」を見ている男にはTVに映される本物の殺人現場でも、偽も本物も区別がないので、特に、CSIなどはもっと酷いシーンがあるので(Dr.は往々目をそらしています)、なんでもなくても、普通の主婦には耐えられないものでしょう。2人の主婦が最後まで、特に一人は一声も発せず、完璧に無言であったことは納得できます。が、裁判員裁判としては無意味でしょう。

 裁判員制度は大変有用で有効な制度だと思います。が、向き不向きはありやりたくない人に強制しない方法が必要でしょう。一応、「引き受けられない」という事を申し出る書式はあります。そのような項目はないと冒頭で述べた原告が主張しているという報道がありますが、Dr.の頃にはそのようなことはありませんでした。原告の時期にはなかったのかもしれません。ただ、引き受けるなら書類は極めて簡単で、書くことはほとんどありませんが、断る場合、膨大な書類を書いたり用意したりしないといけないので、それでウツを発症するのではないかというくらいのものです。この裁判の裁判官には、しっかりと考えてもらいたい事例です。