燃料電池車(水素自動車)になった時の日本自動車メーカの危機管理

 水素自動車というものは、実に簡単な構造です。ということは、ノウハウが無くなる可能性があります。日本の自動車は故障しないことで世界に売れています。その強み=差別化要因が無くなる日が来るかもしれません。メーカは今からそれへの対処策を考えておくべきでしょう。

 こんな笑話があります:

 アラブの王様がロールスロイス(いわずと知れた英国の最高級車です。でした?エンジンをかけてもダッシュボードにおいたコップの水がピクリとも動かないという逸話があったと思います。すべて手作り。)で砂漠を走っていました。故障などしないはずのロールスロイスがなんと故障して止まってしまいました。側近がすぐにロールスロイスに電話すると暫くしてヘリコプタが飛んできて、故障を修理し去っていきました。その迅速さに感動した王様は宮殿に帰ってからロールスロイスに感謝の電話をかけました。ロールスロイスは言いました:感謝して頂くような事実は何もございません。わが社の車は故障いたしませんので。

 似たような話では、同じく、英国のバーバリーのトレンチコートには替えボタンが付属していないという逸話があります。なぜなら、わが社のボタンは取れるような縫製はしていません、ということです。実際にはちゃんと付いて来ますよ。

 日本の製造業はほぼすべてがロールスロイスバーバリーのような地位を築いてきました。

 さて、本題です。ところが、日本のデジタルテレビ事業は今や崩壊状態です。日立は製造中止でどこかからOEMで買ってWOOOの商標を貼り付けて自社製品とし販売しています。東芝は国内製造を止めてしまいました。ソニーは8年間デジタルテレビで赤字しか出していません。パナソニック藤沢市にあった松下テレビ工場を数年前に取り壊し、更地にしてしまいました。今ではパナホームを建てて、藤沢サステイナブル・スマート・タウンという街を作っています。シャープはデジタルテレビを当て込んで液晶工場を増設した挙句、瀕死の状態です。

 アナログテレビの時代には、どこも世界を席巻するほどの技術・ノウハウを持っていたのです。アナログ技術というものは理論があってないようなものです。なぜ、ここの抵抗器は500オームでなければいけないのか(300オームにしても動くではないか)、なぜ、ここのキャパシタは1マイクロファラッドでなければいけないのか(手元にないので、0.5μFで代用だ)、電子回路理論では出てこないものです。そこが職人技の設計で、これが日本の強みだったのです。

 ところがデジタルになると、アナログ部分の設計はすべて部品メーカだけのものとなってしまいました。デジタル部品の典型はパソコンで使われているマイクロプロセッサユニット(MPU:コンピュータ本体と思ってください。俗にチップと呼ばれる小指の爪ほどの大きさのものです。アナログ時代の感覚では、この中に数千万~1億個の部品が詰まっています)ですが、これを作るには職人技の設計技術が必要ですが、一度設計してしまうと、あとは自動で、輪転機で新聞を印刷するように幾らでも簡単に作れてしまいます。

 製品メーカはこの部品を世界にいくつもない部品メーカから買ってきて、箱に入れて組み立てるだけなのです。箱とは、テレビの外枠の事です。製品メーカは、ですから、箱屋などと自嘲を込めて呼んでいます。つまり、日本の上記メーカは箱屋になってしまったのです。つまり、デジタルテレビは韓国でも中国でも台湾でも、どこでも簡単に作れるようになってしまったのです。パソコンも同じ道をたどりました。

 それならMPUも自社生産すれば良いというわけには、ビジネスの観点からはいきません。印刷技術のように大量生産できるものなので部品メーカは大量に低価格で売れるのです。自社テレビ用だけに少量生産しても、最終製品のテレビのコストが高くなるだけで競争力がなくなってしまうのです。自社生産しても、そもそも、そこには差別化要因がないのです。

 自動車もその道を取る可能性がありますガソリンエンジンも、ハイブリッドもアナログ技術がふんだんに使われていて他の国ではマネできません。が、電気自動車は遊園地のゴーカートなどのように誰でも作れるものです。トヨタでなければ、日産でなければ、ホンダでなければできない技術ではないのです。燃料電池は相当難しい技術ですが、これも部品にすぎません。電池会社はどこの国にでも売るでしょう。

 エンジンはNOxなどを出さないようなノウハウ、燃費を良くするノウハウなど模倣不能の技術のかたまりですが、モータは電機会社から買う事になるでしょう。つまり、箱屋になってしまうのです。

自動車は衝突防止装置、運転アシストなどの総合システムとしての道を走り出しました。低開発国でも簡単に製造できる電気自動車本体以外のところで差別化技術をもっと作らないと、トヨタGMクライスラーの道を行くことになる可能性が高いのです。