STAP細胞検証の理研の報告会と科学の方法:演繹推論、帰納推論、発想、背理法

 

 演繹推論(deduction)とは、簡単に言えば、三段論法の事です。つまり、新しい発見はありません。すべて既知の知識の中に含まれているからです。ただ、我々が明示的にそれに気が付いていないだけのことです。つまり、この推論の結論は100%正しいのです

 次の二つの知識があるとしましょう:「鳥は飛ぶ」「雀は鳥である」。これらから、「雀は飛ぶ」という新しい知識が演繹されますね。数学の証明みたいなもので、生徒は知らなくても先生は知っています。尤も、フェルマーの最終定理のような演繹推論は演繹過程が困難なものですから、その証明は十分に意味があります。数学的発見は演繹推論でなければなりません。でなければ100%確実である保証がないからです。

 帰納推論(induction)とは、多くの有限の事実からそれらに共通な法則を発見することです。あくまで「有限」の事実から推測しただけのものですから、無限の場合に適用できるかどうか分かりません。100%確実と言う保証はどこにもありません。

  2 4 6 8 10 12 14 16 18

 次の数はといえば、大抵の人は20と答えます。「偶数が順に出てきている」という法則を見つけるからです。しかし、そうではなく、37なのですと、Dr.は答えるかも知れません。気まぐれに並べただけです。偶々、最初の9数字が偶数で順に発想されただけです。この危険が帰納推論にはつきまといます。

 科学的発見はこの推論で行われます既知の知識に内在していないから、新発見になるのです

 更に、abductionという方法があります。日本語訳は確定していないのですが、「発想」などと言われることがあります。「仮説」と言って良いでしょう。STAP細胞などどこにも基礎となるデータはありません。Vacanti氏の単なる思い付きにすぎません。単なる思い付きは悪いことではありません。そこから大発見が生まれるかもしれないからです。相対性理論量子力学もそうでした。ただ、アインシュタインやプランクが、バカンティと違うところは、彼らはニュートン力学では説明不能の現象に悩んでいて、その不完全性を解決しようとして仮説を立てた所です。仮説は実験で証明されなければなりません。相対論も量子力学も実験によって、現在の実験可能範囲では正しい事が証明されています。

 これが理研が実験を行っている意味です。

 ニュートン力学は「リンゴが落ちるのを見た」ニュートンが「万有」引力を発見したことから作られた力学ですが、厳密に言えば誤った力学で、相対性理論と、量子力学によって修正されています。これらの理論もそのうち修正されるでしょう。こんな言葉があります。

相対性理論量子力学--これらの理論に対して未来が保留している運命がどういうものだとしても、これらは雄大な思想的努力である --Loius de Broglie/ルイ・ド・ブロイ/機械と精神/」

 「未来が保留している運命」とは、謝った理論として修正される可能性がある、ということです。

 背理法は、ある命題(「考え」とでも思っておきましょう)が直接に証明できない場合、その命題が成り立たないとすると矛盾が生じるので、元の命題は成り立つのだ。という証明法です。

 アリバイは犯行時間に犯行現場にいなかったことを証明することです。現場不在証明と訳されています。「犯行現場にいなかった」を直接に証明することはどのようにするのでしょう。これは難しい。現場不在証明ではなく、他所存在証明をするしかないですね。ある日時に東京で犯行が行われた。その時間はサンフランシスコに居たことが証明できている。「東京にいなかった」ことは直接に証明できていないではないですか。それで、いいの?推理小説ではこの方法をとりますので、アリバイは、「どこか他の場所に居た」ことであると、普通、思っていますが、上に書いたように、日本語では「現場不在証明」です。でも、本当は「現場以外存在証明」なのです。今の科学では、人は一時に、一か所にしか存在できないという前提があるので、この方法でよいという事になるのです。

 東京に居なかったことを証明するのに、東京に居たと仮定するのです。すると、同じ時刻にサンフランシスコに居た。これは「東京に居た」ことに矛盾する。したがって、東京には居なかった。これが背理法です。

 上記で、サンフランシスコではなく、横浜に居たとなると、この方法は微妙になります。1時間で往復できるからです。この事実を使って「アリバイ崩し」の推理小説が沢山書かれています。

 さて、以上の事から、下記はどのように考えられるでしょうか。

 1)現在の科学では、万能細胞を作る方法は、ES細胞か、iPS細胞しかない。(事実)

 2)STAP細胞なるものを作ることができる。(仮説)

 3)2)でできたSTAP細胞をマウス入れると万能細胞として機能して光るマウスができる。これによって、STAP細胞が万能細胞であることが証明される。(実証の方法)

 さて、

A) 小保方氏が若山氏にSTAP細胞だと言って渡した細胞から光るマウスできました。

B) しかし、今回の理研の実験では2)、3)が否定されました。

 今、問題になっているのは、若山氏が作ったマウスは何だったのかという事です。

 仮説:このマウスはSTAP細胞からできた。

 矛盾:実験により否定された。

演繹推論によって、1)から、光るマウスを作った細胞は、ES細胞かiPS細胞しかありません。

C) 小保方氏の冷蔵庫からはES細胞が見つけられています。

 これらの事実から演繹推論を施せば、若山氏が小保方氏からもらった細胞は、STAP細胞ではなく、ES細胞であるとなります。これが科学の方法です

 昨日の理研の説明会で、相澤氏と言うリーダが説明していました。随所で「科学者としては」という言い方が入りますが、「200回見たと言うSTAP現象、あるいはSTAP細胞は何であったのか」とか、「光るマウスは何であったのか」という本質的質問には悉く「科学者としてはいう事ができません」と逃げていました。彼にいわせれば、わかっていることは再現実験が失敗したことだけであるということでしょう。しかし、それは科学者の態度ではありません。科学は演繹、帰納背理法などの方法で今のように大発展してきたのです。これらの推論の方法を科学から取り除き、実験したその内容だけで済ませたら、科学は貧弱なものに留まっていた事でしょう。科学者だからこそ、科学の方法で答えることができるのです。

 そのくせ、最後に「科学の問題を、監視カメラなどを使って犯罪者みたいな扱いをした」と、謝罪の言葉に見せて、マスコミを非難していました。あの人は次の2つの理由で科学者とは言えませんね。

 ・本当の科学的方法論を知らない程度の頭でしかない

 ・あるいは、知っていて、組織防衛に走っている

 ああいう、似非科学者がリーダになっているのが理研の体質だということでしょう。税金を注ぎ込む価値はありません。