人工知能に小説が書けるか?

 少し思考のできる人なら、先日、囲碁で人間のトップに勝った人工知能機能と、今朝の新聞記事で「人工知能 星新一賞一次通過」の意味が全く違う事に気が付いているでしょう。

 人工知能は人間が単独で作っています。自然の力を借りていません。この意味は重大です。自然の力を借りた発明は人間の予想を超えたものになります。ペルチェ効果を知らなければコンプレッサのない無音冷蔵庫など考えられないでしょうし、渦電流という現象をしらなければ、IH調理器など想像もできません。新しい物理現象が発見されればそれを工学に用いた製品が出て来ます。戦国時代に人には目に見えない電気など想像することもできなかったでしょう。さらには電波などどのようにしたら論理思考だけから想像できるでしょうか。電波からテレビの発明には論理思考で至ることができます。発見と発明の違いですね。

 

 ところが、人工知能は純粋に人間の頭脳だけの産物です。自然現象の助けは要りません。ですから、専門家も素人もないのです。勿論、専門家は技術について知っていて、どこのだれがどんな研究をしているかを知っていますが、「何ができるか」については素人でもわかるのです

 

 我々生物は環境(世界と言っても良いでしょう)の中で生きています。その環境と思考を結びつけている機構が分からないのです。人間は言語で思考しています。従って、言語と環境をどのように結びつけるかの問題と言ってもよいでしょう。人工知能=機械あるいはソフトに、「犬」をどのようなものとして教えるか?思考能力を持っているあなたならどうします?さらには、実体のない、「夢」とか、「期待」など抽象的な概念はどうしますか?これができないために、今、あなたの使っているカナ漢字変換同音異義語の選択が自動ではできないのです。「保証」「保障」「補償」の違いを論理的にどのように説明できますか?もし、このような意味の違いを数式や論理式で表すことができれば論理思考の範囲で解決できますが、無理でしょうね。

 同音異義語さえ解決できていないのに、更に言えば、解決のヒントさえ思考で解決できていないのに、人工知能に小説が書けるわけがないことは思考能力のある読者なら分かりますね。

 人工知能で文章を生成(書くというより)することはある程度可能です。俳句を読むソフトは既にありますし、作曲するソフトもあります。しかし、それを行うソフトは、その意味が分かっている訳ではありません

 

 芭蕉の俳句の意味を理解して創作できる思考方法を述べられますか?それ以前に、芭蕉の俳句が詠う世界を想像できますか?それを想像できる思考方法を開発できれば、小説を書く人工知能は指呼の間にありますが、今の所不可能です。

 旅に病んで夢は枯野を駆け巡る
 閑さや岩にしみ入る蝉の声
 夏草や兵どもが夢の跡
 まゆはきを俤にして紅粉の花

 人間でさえ、わからない人の方が多いでしょう。


 もう少し分かりやすい芭蕉嫌いの子規の「写生」にして

 柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺

としても、この意味をどのようにして人間は理解していると論理的明晰性をもって説明できるのでしょうか。

「柿」が何であり、「鐘」が何であり、「法隆寺」が何であるか?wikiレベルの知識ではどうにもなりませんが、wikiでなんとかなるレベルさえ今では困難です。

 まして、


 柔肌の熱き血潮に触れもみで悲しからずや道を説く君

 我が胸の 燃ゆる思ひにくらぶれば 煙はうすし 桜島山

など、人間の経験に基づく歌は、それを理解できる思考過程を論理的に述べることはもう絶望的です。現国の問題みたいになりましたが、人間でさえうまく解答できませんね。

 IBMのワトソンが、wiki的な知識を使ってクイズでは人間に匹敵できるようになっていますが、これは囲碁のケースと同じレベルでしかありません。

 囲碁と小説の違い、それは、問題の対象が盤面という小さな環境(世界)と、宇宙あるいは人間の生活環境、精神環境という広大な環境との違いなのです。それは、意味とも、意義の問題とも言われますが、「犬」を完全に定義できる思考方法を思い付けば、本来の意味で、つまり、書かれた事を環境に投影しながら「小説を書く」という問題への解決の一歩が始まるのですけどね。

 

 希望はあります。人間型ロボットを作るのです。人間は、環境を五感で認識しています。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚を持たせ、自動学習させるのです。今の人工知能は人間が一所懸命にアルゴリズム=処理手続き=思考過程を予め考えてソフトにしていますが、人間自身に分かっていない「意味」を定義したり記述したりすることは諦めて、センサーと自動学習に任すのです。その時、wikiのような百科事典が本当に重要になります。