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株式投資をする前に:LTCMはなぜ破綻したか

ロングタームキャピタルマネジメント(Long-Term Capital Management、LTCM
長期資本管理とでも訳しましょうか。ノーベル経済学賞学者2名を擁し、金融工学を駆使した安全性の高いレラティブ・バリュー取引を行う、破綻とは縁がないと思われていたファンドです。

 類似債券の価格差を利用し、安すぎる債券を買い、高すぎる債券を空売りするのですが、この2種の債券は適正点に収束することを仮定した取引です。つまり、安すぎるものは上がり、高すぎるものは下がるのです。この仮定が成り立つ限り、絶対に損失は出さないとノーベル経済学者たちは計算したようです。実際、そのように運営されました。
 しかし、債券でのこの取引では、利益が非常に低いのでレバレッジを掛けなければ有意な利益率にならないので、数十倍にも、たとえば30倍にもレバレッジを掛けます。つまり、手持ちの30倍の借金をするわけです。ここにリスクが潜むのですね。Dr.Yの戦略の一つは「絶対に借金はしない」です。
 LTCMは、いくつかの間違いを犯しています。

 第一に、根本の戦略は運を天に任せるのではなく、かなりの確率でリスクは低いのですが、それでも、この戦略の仮定が崩れる事態はありえるのです。現実に起こりました。

 第二に、このレバレッジです。これは大きなリスクなのです。
 第三が、預かる資本が大きくなりすぎて債券だけでは運用できなくなり、リスクが高い商品にまで手を広げてしまったことです。

 第一の仮定が崩れる切っ掛けは、安すぎる新興国債券が売り浴びせられて高くならず、高すぎる先進国債券が買われまくって安くならない状況が起きてしまったことです。それがロシアのデフォールトによって起きたのです。この状態で、第二、第三のリスクが現実化したのです。

 下記はwikiからの引用です:

 実力と比較して割安と判断される債券を大量に購入し、反対に割高と判断される債券を空売りするもの(レラティブ・バリュー取引)であった。

個々の取引では利益が少ないことから、発注量を増やし、レバレッジを効かせて利益の拡大を図った。

平均の年間利回りは40%を突破した。

1995年にはM&A、1996年には金利スワップ取引、1997年には株式やモーゲージ取引のように、流動性が低く、かつ確実性の低い市場取引にも参入していった。

1998年に発生したロシア財政危機が状況を一変させた。アジア通貨危機を見た投資家が「質への逃避」を起こしつつあった所へロシアが8月17日に短期国債債務不履行を宣言した事により、新興国の債券・株式は危険である、という認識が急速に広がり、投資資金を引き揚げて先進国へ移す様になったのである。

先進国の債券を空売りし、新興国の債券を買い増していたLTCMの経営は深刻な状態となった。


結果としてLTCMの運用は破綻し、資産総額が下がり始めてから約8ヶ月の間で1994年の運用開始時点の額を下回り、1998年9月18日頃には誰の目にも崩壊寸前である事が明らかとなった。

ロングターム・キャピタル・マネジメント - Wikipedia

 このLTCM破綻の世界市場の状態を記述した臨場感溢れる書物があります:
LTCMの経営危機の噂が市場に飛び交い、ファンドの解約やその後発生した損失で、純資産は減少を続けた。LTCMは担保不足になり、金融機関からポジションの解消を迫られた。市場ではLTCMがロング(買い持ち)にしているものは売られ、ショート(売り持ち)にしているものは買われた。LTCMがいずれ保有ポジションの解消に動くと見たからだ。・・・

LTCMが保有するポジションを解消するためにいっせいに反対売買したら、世界の金融市場はパニック状態になると懸念された。それほど巨大なポジションをLTCMは既に抱えていたのだ。影響は米国市場だけに留まるはずはなかった。・・・

年末にはいくつかの金融機関で、有能なディーラー出身の幹部が責任を取って市場から去った。・・・皆、損失の責任を取らされた。LTCMへの最大の投資家だったUBS(スイスユニオン銀行)では、組織のトップである会長の辞任にまで及んだ。・・・LTCMの破綻は、主要通貨の為替相場にも大きな影響を与えた。ドルが激しく売られたのだ。・・・

このときの市場はまさにパニックだった。LTCMに続いて他のヘッジファンドが破綻するという噂、それに伴う巨額なポジション解消で大量のドル売りが出るという噂が市場に充満する中、一部のヘッジファンドが実際にドルを売った。それだけで十分だった。・・・市場は直ちに激しく反応した。・・・我先にドル売りを始めた。アジアやニューヨークの銀行も、この際に一儲けしようと東京市場でドル売りを浴びせた。顧客や海外の銀行が売ったドルを買わされた東京の銀行は、直ちに他の銀行へ売ろうとしたが、相場が急激に下がり、思ったレートでドルを売れなかった。買い値よりも何円も低いレートでドルを売る羽目になった。それでも、売らないと相場はさらに下がるから、売らざるを得なかった。
 相場が大幅に下がると、今度は日銀のドル買い介入の噂が出た。瞬く間に数円、ドルが上昇した。市場はこうした動きを繰り返した。・・・変動の激しさにディーラーたちの声はかすれ、憔悴しきっていた。・・・
 この大変動の背景には、ディーラーの恐怖があった。一つの破綻でさえ米国の金融政策を変えるほどの巨額のポジションを抱えるヘッジファンドが、次々にポジションの解消を続けたら市場はどうなってしまうのか、といった恐怖の連鎖。

」「外為市場血風録」小口幸伸 集英社新書 ISBN4-08-720177-5
-- pp.192 - 200

 株式にしろ、為替にしろ、リスクを伴う投資をしようとする人には必読の書です。