ハイブリッド車に対する誤解

 子猫が5匹も車のエンジンルームに入っていて救われたというニュースの解説で、どこかの自動車なんとか協会のような名前のいかにも自動車の専門家と思わせる所のコメントとして、ハイブリッド車は普段はバッテリーで動いている。急発進の時だけエンジンを使うので熱が上がらず助かったのではないかと言っていました。正確にはこの協会がそう言ったのかキャスタが協会の話をそう解釈したのかはわかりませんが、これは間違っています。PHVというものもありますが、最後で言及します。

 ほんのちょっと考えればすぐ分かると思うのですが、文系の人間というのは論理が分からないのですね。普段はバッテリーで動いている、そのバッテリーには誰が電気を供給しているのでしょうか???大問題ですよ。普通のハイブリッドは、エンジンで発電機を回してバッテリーを充電しているのです。だから、基本的にはエンジンは動きっぱなしです。下り坂では重力で落ちていけば良いのであまりエンジンは動かず、むしろブレーキでバッテリーが充電されます。下りが終わってバッテリー残量がある短い間だけバッテリーで動いているのです。あるいは、今の季節ならエアコンを使いますからこれを動かすためにはバッテリーだけでは電力が足らず、エンジンがほぼ動きっぱなしになり、結果、充電が良くできた時も、短い間バッテリー駆動になることもあります。

 エネルギー保存則という中学程度の知識があれば、どこからともなく来る電気でバッテリーが充電されるわけがない事が分かります。

 ということは、エンジンを動かしている時はガソリンで走っています。バッテリーへの充電もエンジンを動かして行っているのですから、これもガソリンで行っています。すべては、ガソリンエンジンで行っていることです。普段はバッテリーで走るなどということは永久機関と同じことになります。

 じゃあ、なぜ、ハイブリッドは燃費が良いのかという疑問が、論理が理解できる人なら、湧きます。車は加速と減速と定常走行運転から成り立っています。厳密には定常走行運転なんてできないですが、概ねのところとしておきます。加速するにはエンジンをふかさなくてはなりません。ガソリンを大量に使います。減速するにはどうするか?ブレーキを掛けます。この時、運動エネルギーはどこに行ってしまうのでしょう。通常のブレーキシューを使うブレーキでは、そこで摩擦熱に変換されて空気中に放散されてしまいます。長い下り坂でブレーキを掛け続けるとブレーキが焼き付き効かなくなるというのはこの熱のためです。つまり、ガソリンを燃やして得た運動エネルギーを運動に使うことなく熱にして自然に戻し、地球温暖化に一役買っているわけです。

 これはもったいない。せっかくの運動エネルギーを熱エネルギーにして雲散霧消してしまうのではなくなんとか回収できないかという問題に対する解答が、運動エネルギーを電気的に回収しようという回生制動という技術なのです。これは大昔から電車では使われていた技術で回生制動自体はローテクです。ブレーキを摩擦熱にするのではなく、ブレーキペダルを踏むと発電機が動いてバッテリーに充電するようにしたわけです。発電にはエネルギーを使うので(水力、火力、原子力を考えればわかりますね)、運動エネルギーが電気エネルギーに変換されのです。これをバッテリーに繋げば充電できるのです。坂道、信号などで加速と減速が繰り返されても、減速時にエネルギーを回収し次の加速に使うので燃費が良いのです。なお、巡航状態でも、道は凸凹ですし、曲がってもいます。つまり加速減速が常に行われています。非直線運動は加速度運動ですね。たとえば時速80Km固定で走るなんてできないので、この微妙な加速減速でも減速時の回収エネルギーを加速に回しています。

 急発進の時には、バッテリー残量があれば、これにモータの推進力も加えます。Priusでは、急発進の時には、1800ccのエンジンとモータを併せて2400ccレベルの推進力で発進すると書かれています。つまり、普段はバッテリーで動いていて、急発進の時だけエンジンを使うというのではなく、その正反対なのです

 なお、PHV型(Plug-in Hybrid)のハイブリッドでは、エンジンで発電機を回して充電する以外に、動いていない時は家庭用の100vからの充電もできます。それでも、バッテリーだけでは精々、20Kmか30Km程度しか走行できません。それ以上走りたければ、高価で重たいバッテリーを大量に積み込まなければなりません。EVがそうしていますが、エンジンを積んでいるHV車ではそんな無駄なことはしたくないので、ひとっ走り分だけのバッテリーにしているのです。通常のHV車は、当然、減速時だけのエネルギーを回収できれば良いので小さなバッテリーしか積んでいません。バッテリーメータを見ていると、残量はすぐにフルになり、直ぐになくなるのが分かります。バッテリーは走行のためではなく、エネルギー消費を平坦化するための目的ですから、これで良いのです。電気だけで走りたければ電気自動車か水素自動車Miraiを買うことです。