なぜ日経平均は暴騰したか

10月31日、日経平均が暴騰しました。なにしろ、12月早い時期には安倍首相は消費税10%を決断しなければなりません。上げれば、消費はますます減少し、経済は縮小する。上げなければ日本の国債の信認は地に落ちて金融は崩壊する、と前門の虎後門の狼状態が今の状態なのです。で、黒田日銀総裁は決心した。追加金融緩和を発表しました。

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 --Yahooから引用

 

よくやったという印象です。世の中にはいろいろな事を言う人がいます。死に瀕している人にある薬が効くかもしれないが確証がないという理由で、ただ死ぬのを無策に見つめている傍観主義者は少なくありません。エボラ出血熱の場合、それでもやってみようという事になりつつあります。面白い事に、日銀理事会は5:4で反対が4名もいます。賛成は政府、経済研究所、大学など出身、大企業出身者が全員反対だったのは考えさせるものがあります。彼らは天下国家より自企業の事を考えているのでしょうか。

 黒田総裁は傍観主義者の反対は当然わかっているので「できることは何でもする」と言い続けています。何かをすれば、当然、反作用があり、それは必ずしも正の方向ばかりではなく、負の方向のものもあります。傍観主義者は常にこの「負」を嫌って、「何もしない」を選択するのですが、負の反作用が起きたらダイナミックに次の手を打ち続けると黒田総裁は言っているのですね。経済・金融政策が100%あたるなんてことはありません。とんでもない複雑系ーー人間心理も含んだーーになっているのでコンピュータにさえ解けません。というより、解かせるべき方程式を人間が立てられません。

 これで、経済が上向きになり、6割もいないと思われる正規社員が増え、ベースアップもされるようになれば、消費も増え、脱デフレも成功し、国債の信認も行われて日本の経済・金融は安泰になるでしょうか。そう簡単に行くことはないでしょう。が、経済不況を脱し、金融が信認を受ける可能性を秘めた一石二鳥の妙手になる可能性ではあります。ここで黒田総裁が手を打たず12月になって安倍首相が10%消費税は延期とすれば、逆に実施とすれば、どちらにしても二進も三進もならなくなります。「司馬遼太郎 坂の上の雲」 第8巻 p168にこんな一節があります:

 「君は参謀官だそうだから、心形刀流の極意を教えておこう・・・剣にかぎらず物事には万策尽きて窮地に追いこまれることがある、その時は瞬息に積極的行動に出よ、無茶でもなんでもいい、捨て身の行動に出るのである、これがわが流儀の極意である」

 これは座して死を待つ傍観主義者に対する訓戒なのでしょう。この黒田マジックを成功させるために安倍首相と黒田総裁には絶え間なく手を打ってもらわねばならないでしょう。

 ところで、株は(何も金融・経済・政治事故がない時でも)なぜ下がるのでしょう。機関投資家は基本的には買うのです。買って値上がることで儲けを出すのです。下がるのは「頭と尻尾はくれてやれ」で、多少、儲けが少なくなっても、売って利益を確定するからで、これは株の常道です。損ではありません。儲けを少し少なくしても安全を買うのです。安全に対するコストが下がり分で、これで、少し下がるのです。あるいは、この少し下がるのを見て、もっと下がるのではないかと狼狽する、狼狽売りがあります。まずは、これらの原因で下がりますが、大した量ではありません。想定内です。以上で考えられる値を遥かに越えて暴落する時があります。「空売り」です。これは安全コストではなく施策です。

 空売りでは、下がれば下がるほど儲かりますので、彼らは必死に持ってもいない株を安く売って下げに持っていきます。株券は持っていないので、決済時に市場から買わなければなりません。十分下がった所で、市場から買えば、当然に安く買えます。安くなりすぎた株は上がって行きますから、安く買った株をそこで売れば儲かるわけです。そうして、空売りをしていた連中は、黒田総裁の予期せぬ抜き打ち金融緩和に驚き慌て、泡を吹いて買戻しにかかったのです。黒田総裁は、まさに軍師官兵衛ですね。

 1時間半で800円も日経平均が上がったのはこういうわけでしょう。普通の売買では、こんなに上がるなんてことは考えられません。狼狽売りの反対の狼狽買戻し、ですね。絵に描いたような踏み上げ相場でした。ですから、日経平均構成銘柄のような大企業でない株を持っている人は全然、この恩恵に与かっていません。ヘッジ共の持っている日本株は大企業中心だからです。

 しかし、この日本株の暴騰で、ニューヨークも欧州も上がり、全世界の株が上がっています。実経済にこの好況が反映するには半年、1年、2年はかかるでしょう。それまで持ちこたえる政策が必要でしょう。

 典型的な例を見てみましょう。1973年の第一次オイルショックです。この時はオペックの政策により原油価格が4倍になったことが引き金でした。「佐藤雅美著 大君の通貨」P.297にこんな一節があります。

「昭和48年から数年にわたっての第一次オイルショックによる物価調整、オイルショックインフレーションは、原油が四、五倍に高騰したことに加え、為替政策、金融政策、財政政策、のミスが重なり合って起きたものだが、あの時の物価調整は二倍であった。給料のほうも喘ぎ喘ぎ追いかけ・・・」

 物価は原油4倍高を受けて即時に2倍に上がりましたが、給料は年度が明けなければ上がりません。翌1974年度にはおよそ40%上がり、翌々年には30%、20%、10%というように(40+30+20+10=100%という嘘のような本当です)、4年くらいかかって物価の2倍に追いついて行ったのです。その程度のタイムラグはあるのです。