物の値段について

 面白い記事を見ました。

Yahoo!ニュース - 「年収2000万円未満お断り」のローストビーフ シェフが「日本一高い」理由を激白! (J-CASTニュース)

 「当サイトでは、凡人には理解し難い超高級ローストビーフを提供しているため、年収が2000万円以上あるような経済的・精神的に裕福な方を対象としています。それに満たない貧乏人の方や、当サイトの趣旨にご理解いただけない方は閲覧・ご利用をご遠慮くださいますようお願い致します」

 ローストビーフには、熊本県阿蘇産の赤牛を使っており、化学調味料や添加物を一切使わず、注文から24時間かけてじっくり作るという。値段の方は、サーロインローストビーフが、500グラムで3万3480円、1キロなら5万6160円、2キロなら9万9360円、と超高額だ。

 貧乏人お断りの理由については、「化学調味料や添加物等で、舌の感覚が麻痺している」、「値段だけでしか物の価値をはかれず、作り手の情熱を軽視する」、「見当違いなクレームを言ってきそう」という3点を挙げた。そのうえで、「私は日本一命懸けで料理に向き合っています。その覚悟と情熱をご理解いただける方とのみ、お付き合いしていきたいと考えています」と言っている。

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 かなりあざとい店ですね。幾らお金が有り余っていても、こういう独善的精神の店では食べたくありません。

 そういえば、昔、ダイナーズカードの会誌には「年収4000万円の人とお話がしたいーージャガー」のような広告がありました。車のジャガーです。今でも、欧州の車はおかしいんじゃない?という価格がついています。Dr.は人に勧められても、「ああ言うヤクザ・成金用の車は恥ずかしいから乗りたくない」と言っています。800万円くらいで買っても6,7年で手放すことになると50万円程度の下取り価格になりますが、これが本来の価値なのでしょう。「宝石の買い方」の所でも似たような事を書きました。1000万円で買ったダイヤモンドが50万円の下取りであったと。

 化粧品も似たようなもので、原料はチフレと同じで、機能、効能もほぼ同じであっても、(人との差別化、自己満足のために)高い事に意義があるという側面があるので、そのことで高価格品が売れているメーカがあります。

 お歳暮の季節になりましたが、誰もが三越伊勢丹とか、大丸・松坂屋高島屋から贈っていると思います。間違っても、スーパからは贈っていないでしょう。中身はまるで同じものなのですけど。あれは包装紙を贈っているのですね。私は貴方を大切な人と思っています、という意思表示なのであって、商品などどうでも良いのです。

  ところで、忘年会の季節になりました。ワインでも持ち込もうと床下から引きずり出しました。シャトー・ラフィット・ロトシルト91年です。ネットで調べると、なんと10万円~20万円の価格がついています。

1990 シャトー・ラフィット・ロートシルト|商品詳細|高島屋オンラインストア

1990 シャトー・ラフィット・ロートシルト 税込 216,000円

1991年物は高島屋の在庫にはないようです。実は1990年は当たり年でこんなに高いのであって、1991年は並の年ですから高島屋にあったとしてもこれほどは高くないでしょうが、それでも数万円の差でしかないでしょう。750mlですから10人で飲めば一口づつで終わりです。

 じゃあ、この20万円ほどのワインがどれほど旨いのかと言えば、頭をかしげざるをえません。5,6年もののカリフォルニアの4000円のワインと飲み比べれば、味の違い(差ではないですよ)は分かるかも知れませんが、どっちが旨いかについては意見が分かれることでしょう。

 なぜ、こんなことになっているのか?希少価値と1855年のナポレオン3世による格付けの為でしょう。

 今では、カリフォルニアワインを始めとし、チリワイン、オーストラリアワイン南アフリカワインのように優秀なワインが世界中で作られています。しかし、100年も前は、実に荒い作り方をしていたので、安ワイン=「飲みにくい」ワインになっていたのでしょう。象徴的に言えば、葡萄の実だけではなく、畑から葉っぱも茎も、イモムシもそのままセメントつくりのプールに放り込んで男どもがその中に素足で入り、踏みつけてジュースを絞り出し、発酵させ、寝かせることなく庫出したもので、タンニンの渋みが物凄く、それこそ渋面を作って飲んでいたわけです。なぜ、そんなにまでして飲みたいのか気が知れませんが、生活苦のストレスを発散させたかったのでしょう。

 一方で、ボルドーの超一流シャトーは、日本の造り酒屋のように丁寧に葡萄だけを選別し、かつ、良い実だけを選び出し、綺麗な樽で発酵させるという、日本人の感覚では当然の清潔・丁寧な作り方をしていたのです。今では、世界中でそのような作り方になり、清潔なステンレスの樽で発酵させ、ビン熟成をさせていますからボルドーワインとの差が付かなくなっています。

 それでも、老舗の強みでフランスワインはこんな法外な値がついているのです。が、値段は供給と需要で決まるものであるとすれば、これも仕方ありません。

 因みに、ソムリエの世界コンクールというのがあります。田崎氏が相当前になりますが優勝したことがあり、驚きました。ソムリエの優勝と言えば、ワインを飲んで「これはシャトーマルゴー1998年ものです」などと当てるとおもいきや、そんなことはできるはずもありません。年なんて無理でしょうが、産地さえ当たらなくても不思議としません。葡萄の品種くらいはあたるでしょうが。007が、「これはシャトーオブリオン1924年ものだな」(記憶がないので、適当です)なんて言う映画の場面があって、憧れたものですが、あれは大嘘です。

 田崎氏がフランスの前年度チャンピオンを制し、勝った瞬間を見ていましたが、最後にリキュールを当てるところで、二人とも何がなんだか分からない酒が出たのです。前年チャンピオンは、開催地が日本だったので、ヤマ勘で「ウメッシュ」と言いました。田崎氏は確か、欧州のどこかのリキュールの名前を言ったと記憶しています。正解は欧州の恐ろしくローカルな地域のリキュールだったので、二人ともハズレなのですが、田崎氏は欧州の名前を言っていたので、鼻の差で勝利したのでした。

 結局、この種のコンクールは産地、シャトー、年を当てるなんて無理なので、いかにその酒を表現するかに尽きるのです。ということは、当然、フランス語でなくてはなりません。それも意味不明の「最初口に含んだ時は、乙女のように初々しい。スミレの香りが口中にフワリと広がって・・・」みたいないい加減な事をどんどん言える能力が必要なので、日本人がチャンピオンになった事に驚いたのです。

 織田信長が京都に足利義昭を奉戴して上洛した時の事でしたか、京一と称される料理人を自分のシェフにしようとし料理を作らせた所、あまりのまずさに「殺せ」と言ったとか。そのシェフは、今一度チャンスをくださいと言って、もう一度料理を作りました。信長はそれを口にするや、「旨い!」そのシェフ曰く、最初の料理は腕によりをかけて作った京料理の真髄(つまり、素材の味を大切にする薄味)である。二度目は尾張の田舎風の濃い味の料理だ、と。信長はそんなことは承知の上、「俺の料理人が俺の味を作れないのなら不要のものだ」と。逸話です。

 ま、ことほど左様に味などというものは個人の勝手なのです。Dr.は、素材の味は是非、殺して、うまく味付て欲しいといつも言っています。

 自分だけがすごく努力したのでそれをわかってほしいなどと言ったところで、それが多くの人に好かれる味でなければ存在意義が薄いのです。ひとつも売れないのは当たり前ですね。