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日本のテレビ生産が終焉した理由

 既に旧聞に属しますが、東芝パナソニックまでが実質的にテレビ生産を止めたと報道されました。大企業と言うものはメンツがあるので「キッパリ」と止めた=敗北したとはなかなかいいません。徐々に止めていくものなのです。

 NECが独自規格のパソコンであるPC-98を止めて世界標準であるIBM-PC/Windowsパソコン規格に変更した時も、自社規格を捨てることは恥になると感じたのか、止めたとは言っていないのです。マイクロソフトWindows98を発表した時に、同じ「98」であることを利用してPC-98ハードからIBM PC/AT互換ハードに変更したのですね。新しいパソコンになったとか何とか言って。確かに、Windows95からwindows98に変わったので新しいとユーザは思ったでしょう。本当はOSではなくハードのアーキテクチャを変えたのです。OSはPC-98も何時からかWindowsで同じなので技術者でない詳しくない人にはハードウェアの規格変更=無条件降伏とはわからなかったと思います。

 東芝がVTRのβ-MAX規格からVHS規格に切り換えた時も、激戦の末、敵陣営に下ったということになるのを嫌い、ヨーロッパでの生産だけを中止(逆だったか?)と発表し、止めたわけでは無いとして軟着陸させ、あとはこっそりとマスコミ発表なしに全面撤退したのでした。

 というわけで、今回も日本のテレビ業界:ソニーパナソニック、シャープ、東芝、日立・・・は完全撤退という前哨戦でしょう。

 ではなぜ、こんな事になってしまったのか?技術立国日本はどこに行ってしまったのかという疑問が浮かびます。デジタルテレビはハイテクではなかったのか?実はデジタルテレビはローテクなのです。そのために、技術的後進国でも簡単に作ることができるようになってしまったのです。半世紀以上前に織物産業のような軽工業後進国に乗っ取られたのと同じ産業構造の結果なのです。家電は軽工業ですから誰にでも作ることができるのです。

 パソコンもそうですね。ノートパソコン世界シェア1位を誇っていた東芝DynaBookは今や見る影もありませんし、本家本元のIBMはパソコン事業を中国のレノボに売ってしまいましたし、日の出の勢いで急速に立ち上がっていたソニーVAIO事業も売られてしまいました。テレビと同じ事情でローテクになってしまったからです。

 テレビがアナログ技術であった頃は日本の独壇場と言って良い状態でした。職人芸的な技術力が有効であった時代です。アナログの電子回路というものは理論できっちりと規定できず職人芸が必要だったからです。配線をちょっと変えたり、部品の位置を変えたりするだけで性能が変わります。料理を考えてみましょう。レシピ通りに作っても一流シェフの料理のようには絶対になりませんね。ちょっとした手の捻り、味つけのタイミング、曰く言い難いコツがあって何年も修行しないと一流の腕にはなりません。何年掛ってもなれないかもしれません。ある意味、天才が必要となります。普通の人がどんなに将棋の本を読んで勉強しても日本将棋連盟の九段にはなれません。一日10時間テニスを練習しても錦織選手のようにはなれません。これがアナログ技術なのです。日本のテレビが世界を席巻できたのは、そのような技術の天才と秀才が多数いたからです。

 デジタル技術の製品はロゴの組み立てのようなものです。誰でも作れます。良く箱物と言われます。我々は箱物を作っているだけですと、今や技術者は自嘲的に言います。パソコンなら入れ物としての箱の中に他国で作られた部品を詰めているだけだという意味です。VAIOという美しいデザインの箱の中に米国で作られたマイクロプロセッサ、台湾で作られたその他ほとんどすべての部品を詰めて売っているだけだと言う意味ですVAIOだけではありません。全パソコンがそうなってしまったのです。東芝が世界シェア1位であった時代には、東芝は重要な部品を内製して他社より高性能のノートパソコンを作っていました。しかし、今やインテルがそこまで供給し、世界のどのメーカも同じ性能になってしまい、箱だけで競争することになりました。それは価格競争を意味します。人件費の高い、そして、円が高い日本では勝てない構造になってしまったのです。

 テレビがデジタル化されたということは、あれはパソコンとほとんど同じものになってしまったということです。自然はアナログですので、アナログ技術は必ず必要です。マイクロコンピュータはアナログ技術をデジタル技術に変換する部品だと思ってよいでしょう。これを他国に押さえられ、他の部品もそうなってしまい、日本メーカは箱屋になってしまったのです。誰でも部品を買ってくれば作れる機械になったわけです。

 今後、日本メーカは4Kのような高精細テレビで差別化をするようですが、アナログ→デジタル変換部品を押さえない限り同じことになるでしょう。 

 日本がDRAMというパソコンのメモリーで世界を席巻していた時代がありました。この設計・製造もアナログ技術です。それでデジタルの記憶装置となっているのです。その製造装置はメモリーメーカである東芝、日立、富士通NECなどが作っているのではありません。キヤノンとかニコンなどのカメラメーカの製品です。ですから、どこのメーカでも半導体製造装置を買い込めばDRAMを作ることができるのですが、日本の各社は楽観視していました。製造装置を買っても使い方にノウハウがあるので、使えないだろうと思っていたのです。三ツ星シェフと同じ包丁を使っても良い料理ができるわけではありません。

 ところが、韓国の企業は日本の技術者を密かにパートで雇ったのです。現場の技術者というものは日本の製造業の悪弊で厚遇を受けていません。高い時間給を示されたら受けてしまうでしょう。金曜エクスプレスと言われていたようです。金曜の夜の韓国便で成田かどこかを立ち、土日に韓国の技術者に使い方を伝授して日曜に帰ってくるというやりかたです。聞いた話ですが、同じ便に顔見知りの他社の技術者が乗り込んでいても互いに知らぬふりをするだという事でした。そういえば、最近も類似の事件が起きています。

 「当社は、NAND型フラッシュメモリの技術に関する機密情報について、韓国SKハイニックス社がこれを不正に取得・使用したとして、不正競争防止法に基づく損害賠償等を求める民事訴訟を本年3月13日に東京地裁に提起しましたが、本日、同社と和解に合意しました。本合意に基づき、当社はSKハイニックス社から和解金の支払いを受けます。

東芝:プレスリリース (2014-12-19):韓国SKハイニックス社との訴訟における和解とメモリ事業における協業拡大について

 ついでながら家電業界はどこの社もコモディティに陥った家電事業の再編成に忙しく動いています。ソニーは売るものがなかったのですが、画像センサーに大シフトとかで、なんと化粧業界に入りお肌センサーを売り出しました。元々、既にエレクトロニクスからは撤退気味で銀行やら保険やらの金融会社になっていたのですが、さて、エレクトロニクスで生き残れるか?

 パナソニックは、パナホームを売ってついでにその中に入れる家電製品を売ろうという戦略のようです。加えて車載機器に大シフトです。

 日立、東芝は本来の重電に回帰。日立は社会インフラとして鉄道システム、給水システムなどに力を入れています。イギリスの鉄道はそのうち全て、日立が作るということになるのではないでしょうか。東芝フラッシュメモリーの他に、既に原子力発電一本かという位に大シフトしていましたが、その頭を東北の地震で打たれてしまいました。最近、カザフスタンなどから受注とかなんとかやっているようです。

 カザフスタンなんて地政学的には本来ロシアの商圏なのですが、ロシアがウクライナにした仕打ちを見て、ロシアにエネルギーで依存しては碌な事にならないと思って日本に発注とのこと。ロシアはこれで更に不況が進むでしょう。自業自得とは言え、どこで我が身に災難が帰ってくるか分かりません。情けは人の為ならずの逆を行くプーチンです。

 サンヨーは既に亡く、シャープは高精細なイグゾー液晶しか売るものがなさそうで又も赤字。軽工業としての家電はもはや日本には重荷のようです。