民事訴訟での弁護士の役割

 民事など大したことはないと思うかもしれませんが、これがなかなか下手をすると刑事訴訟より難しいのです。先に言及したDlifeの「スーツ」のハーヴィーが関わっている民事でも、いつも困っています。何しろ、被告は嘘をつきまくります。卑劣な人間・悪魔であるから訴訟を起こされるのですから、嘘くらい平然とつくのです。良心などかけらもありません。どんどん実例のパクリが暴かれていても「私はパクリを行ったことはありません」なのです。人間とは異なる遺伝子を持っているのでしょうね。

 Dr.Yが扱っている民事でも、原告が無茶を言っている場合でなければ、例外なく被告は嘘をついていました。平然とです。嘘にならない、すぐばれる嘘も平然とつきます。

 期日に提出する書類は「準備書面」と呼びます。法廷を開く前の準備、あるいは判決の為の準備の書類ということでしょう。そこで、例えば、こういう事を主張します:「その行為が行われたのは2月27日だと原告は主張しているが、被告が行ったのは2月31日であり、原告の主張には意味がない」・・・と、これでは、さすがに誰でも、被告の嘘に気が付きますが、こんな調子の嘘もあります。卑劣な者というのは、あり得ない嘘を平然とつくのですね。こんなのはいかがでしょう。わかりますか。

「原告はその時の被害物体の温度はー20℃と主張するが、被告が知る限り、そのものの温度はー300℃であった。原告は事実を把握していない。」

 中学生程度の知識があれば、この嘘もあり得ない嘘とわかるでしょうが、それでも、平然とこの種の嘘をつきます。もっと専門的な数値が出てくれば、裁判官はもうお手上げになるでしょう。それを狙っているのです。

 アリバイの話をしましたが、アリバイは直接証拠ではありません。

 事件の起きた時点で他の場所に居た → 現場に居ない

という間接証拠でしかありません。証明できたことは左辺ですが、そこから右辺を帰結させています。もし、「→」の過程に誤謬があれば、アリバイは成り立ちません。しかし、それでも、裁判では認められています。

 従って、弁護士の役割は、如何に被告の嘘を突き崩すかにあるのです。裁判所の支援なしにです。テレビコマーシャルで弁護士事務所が過払い金の払い戻しを請け負うというものをやっています。あれは、成功報酬だけのようですが、この種の案件ですと、ほぼ100%勝てるわけなので成功報酬だけで請け負えるのです。サラ金が貸し付けた年利が法定より高いことなど、客観的に、簡単に証明、というより計算できます。テレビでコマーシャルを打っているような大手サラ金なら、それを突き付けられればすぐに折れます。簡単なものです。しかし、一般の民事ではなかなかこうはいきません。嘘を暴くのは大変なのです

 民事訴訟においては裁判所はほとんど面倒なことはしません。証拠提出命令など出しませんし、偽証罪など問いません。法廷侮辱罪も取りません。何しろ、期日は法廷ではないのですから。ですから、裁判官は法服は着ません。夏なら、ノーネクタイです。もし、そのまま和解勧告を受ければ、法廷は最初の一度、それも5分だけです。

 被告の嘘を暴くのは原告の責任なのです。単独の弁護士ではなく、弁護士団で検討するのは、被告の嘘を突き崩すために、文殊の知恵が必要だからです。六法全書だけではなく、裁判所から定期的に出ている判例集、法学者の論文など詳細な法的根拠も知っていなければなりません。そのような膨大な資料を一人の弁護士がすべて押さえていることはまれなのです。

 こんなことがありました。おばあちゃんがおなかが痛いという。内科に連れていきました。とりあえずは消化器内科です。血液検査を行い、レントゲンをとり、CTをとり、コレステロールがどうの、肝臓のパラメータがどうのとどうでも良い、Dr.Yがすべて知っている事を並べ立てた挙句、「異常はありません」です。ヤブ医者にかかるとこうです。最後に、徳洲会に行ったところで、事前相談で回されたのが整形外科、レントゲンを見た医師は一目で「折れてますね」です。最下部の肋骨が自然骨折して小さなひびが入っていて、その為に痛みを覚えたというわけです。弁護士の仕事も同じようなものです。頭の良さが勝負です。