STAP細胞論文事件に関して

 小保方さんが書いた論文が色々と問題になっています。一般の方々には何がそんなに問題なのかわかりにくいでしょう。少し考察してみます。その前に、まず下の記事をお読みください。

 「STAP細胞 小保方さん、再現実験に成功 論文発表後初めて

2014.3.6 08:59」(赤字はDr.による)

 -- http://sankei.jp.msn.com/science/news/140306/scn14030609000001-n1.htm より引用

 この記事はNatureに載った論文の問題が取沙汰されてから本人によって行われた再実験で再びSTAP細胞を作る事に成功したというものです。これが、本当なら、理研は何よりも先にこの結果を声を大にしてアピールするべきなのです。論文がどうであろうとも、正にノーベル賞級の大発見であることは変わらないからです。

 しかし、「これが本当なら」と上に書きましたが、そこを理研は裏書していません。なぜなのか分かりません。野依さんは何をしているのでしょうか。事務方は防御が習い性となっているので、今となっては枝葉末節の出来事である論文の正当性の防御ばかりを行い、肝心な事を忘れてしまっていますが、事務とはそういうものです。ここは司令官が正しい判断と行動を指示すべきなのです。それとも、この発表そのものに、理研は自信が持てないのでしょうか?それならば、野依さんは当然、彼女の実験に付き合って、試料のすり替えなどが無い事を自身の目で確かめて発表すべきであったでしょう。

 ところで、他の研究者が追試しても再現できない事自体は珍しいことではありません。料理本を読んでその通りに作っても、一流シェフの料理の様にはできないのと似たようなものです。こんな文章があります:

 「ーー論文を読めば、誰でも作れるというもんじゃないでしょう。

  『そりゃそうなんです。論文に書いてあることは、本当の骨組みだけでね。あれだけじゃわからないことがいっぱいある。・・・

実験にはこういう細かな技術的ノウハウが無数に必要なんですが、そんなことは論文には何も書いていない。』

 --じゃあ、人の論文を読んで追試しようと思っても、簡単にはできない。

 『そういうこともよくあります。特に重要な研究で、他の人にすぐに追いつかれてもらっては困るなんていうときには、重要なポイントをわざと抜かして書いてあったりする。他の人が追試しても失敗する。』 

--「精神と物質」利根川進立花隆 対談 pp.231-233 文春文庫 ISBN4-16-733003-2, 1993

 上記は、今回の問題に関する対話ではありません。1993年発行の本の一部です。1987年、日本人で初めてノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進氏に立花隆氏がインタビューしているものです。『』内が利根川氏の発言です。他の研究所などで追試が成功しないこと自体には何の問題もないのです。 科学の最先端はまだ確立した技術になっていない職人芸の世界なのです。それを誰でもできる普遍的な技術にするのが工学でしょう。マスゴミは、無用に追試を問題視しすぎています。

 さて、この事とは別の、論文事件について、解説しましょう。この事件は2つの内容から成り立っています。

  参考:http://blog.goo.ne.jp/lemon-stoism/e/008ac025ee1ccf4c694869f09b053ee7

     http://stapcells.blogspot.jp/2014/02/blog-post_2064.html

 1.他人の文章を無断で自分の文章として論文を書いている:著作権法違反=犯罪

 2.研究が成功していることを証明する証拠写真を捏造している*:STAP細胞でない細胞の写真をSTAP細胞としてNature論文に出している。

    *:刑事事件で検察が証拠を捏造した事件がありました。当然、犯罪として起訴されています。これと変わりはない非常に悪質な行為です。「単純なミス」と強弁している関係者がいますが、科学に携わる者ならそのようなミスなど起きるはずがないことは知っています。ほんの1,2年前に自分が苦労して書いた博士論文の内容と写真を忘れるわけがありません。もし、本当にミスであるのなら余りに杜撰な性格で到底現代の緻密な科学には向いていません。

 1.の問題はあまりに初歩的な事です。川端康成の文章を自分の書いたものとしてあなたが本を出版したら、良心を持つ人なら、誰が考えてもマズイと思うでしょう。

 マスコミでは「コピペ」とか「無断転用」などの柔らかい言葉が使われていますが、これは「盗用」、泥棒という犯罪行為なのです

 「引用元」を書いてないのが問題と言う解説がされていますが、そのような軽い問題ではありません「引用」とは冒頭の記事を示したような使い方をした他人の文章です。自分の本文としては使えません。あくまで、補強、説明、そのような位置付けです。そして、引用部分を明確にしておく必要があります。冒頭の記事は「」で囲んであります。Dr.自身の文章ではないからです。その他、フォントをイタリックにするなど、とにかく、本文とは違うと一目で分かるようにしておく必要があります。彼女の、他人の文章の使い方は、自分の本文として使っていますので、「xxから引用」と書いてもダメなのです。それから、引用文は量も問題になります。必要最小限の内容しか許されません。

 時に、このような著作権上の(確信犯的あるいは倫理観欠如による)事故はおきますが、そのような論文は取り下げて、可能なら書き直して再提出するなどの処置が必要です。勿論、それで終わるとは限りません。原著者から損害賠償を迫られる可能性もあります。例えば、当該Nature誌を全て回収し、問題の論文を削除した新しいバージョンを刊行せよと迫られる可能性もあります。当然、回収と刊行に掛かる費用は負担しなければなりません。論文を再提出しても受理されるとも限りません。倫理観の欠如と解釈されますから、この世界では生きていけない可能性もあります。

 博士論文がこれでは、研究者としての資質は無いと言って良いでしょう。 

 2.の画像の捏造の問題はもっと深刻です。何しろ「証拠写真」を捏造したのです。これが許されるなら、どんな不可能も可能になってしまいます。

「万能性への疑問は、論文不正などを取りあげるインターネットのブログで9日に指摘された。筋肉や腸の組織をとらえた計4枚の画像で、英科学誌ネイチャー発表の論文では、いずれもSTAP細胞から育ったと説明された

 だが、これらは論文の主著者である理研小保方晴子ユニットリーダーが2011年に書いた博士論文の画像とそっくりだった。博士論文ではSTAP細胞ではなく、骨髄の中に元々含まれている万能の細胞を育てたとしていた

 若山さんは「この写真は細胞がいろいろなものに分化できることを示す写真で、研究の根幹が揺らいだ。私が実験をしたのが何だったのか、確信が持てなくなった」と話した。」(太字強調はDr.による)

--http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140311-00000009-asahi-soci

 

 「よくあることだ。やりなおせば済む」

これは、あまり倫理意識のない一般人の感想かもしれませんが、「よくもあ」りませんし、著作権法違反はこんなに軽い話ではないということが以上の説明でお分かりかと思います。まして、画像の捏造などは問題外なのです。

 問題なのは、このツイットのような考えを抱いている似非研究者が少ないとは言え存在している事実でしょう。科学技術の水準を劣化させる最大の原因になっています。その最たる例が下記です。 

http://www.kobe-np.co.jp/news/zenkoku/compact/201312/0006598476.shtml の記事です。

「東京大は26日、東大分子細胞生物学研究所の加藤茂明元教授らが1999~2010年に発表した51本の論文の計210カ所に、不正な画像データが使われていたとする中間報告を公表。51本のうち43本は撤回、8本は訂正が必要だとしている。

 加藤元教授以外に、不正に関与した人物の特定や処分は、最終報告で明らかにするとした。加藤元教授は12年に辞職しているが、東大は退職金返還を求める可能性があるとしている。2013/12/26 18:54」

 さて、この結末はどのようになるのか?難しい問題ですが、先例があります。

「 黄禹錫(ファン・ウソク、1952年1月29日 - )は韓国生物学者

かつて、世界レベルのクローン研究者とされ、ヒトの胚性幹細胞ES細胞)の研究を世界に先駆け成功させたと報じられた。自然科学部門における韓国人初のノーベル賞受賞に対する韓国政府や韓国国民の期待を一身に集め、韓国では「韓国の誇り」 (pride of Korea) と称されたこともあった。

しかし、2005年末に発覚したヒト胚性幹細胞捏造事件ES細胞論文の捏造・研究費等横領・卵子提供における倫理問題)により、学者としての信用は地に落ちた。」

 -- http://ja.wikipedia.org/wiki/黄禹錫

  上に記した「精神と物質」で、利根川さんがどれほど真の研究を進めるに当たって苦労されたかに触れることをお勧めします。